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横浜地方裁判所 昭和58年(行ウ)3号 判決

原告 冨田匡道

被告 横浜中税務署長 事務承継者戸塚税務署長

代理人 河村吉晃 郷間弘司 佐々木武男 藤巻優 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  横浜中税務署長が昭和五六年八月三一日付でした原告の昭和五四年分の所得税の更正(以下「本件更正」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五四年分の所得税についての確定申告、本件更正、異議申立、同決定、審査請求及び同裁決の経緯は、別表記載のとおりである。

2  原告は、昭和六〇年に神奈川県横浜市戸塚区岡津町二一一九番地に住所を移転し、これに伴い、同所を所轄する被告が横浜中税務所署長の地位を承継した。

3  本件更正には原告の所得を過大に認定した違法がある。

よつて、原告は本件更正の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認め、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  課税標準について

原告の昭和五四年分の課税標準となる総所得金額(以下「総所得金額」という。)の内訳は、次のとおりであり、その合計額は七二一万四八八六円である。

(一) 雑所得の金額

(1) 原稿料に係る所得金額              一万六八二八円

(2) 緑地保存奨励金に係る所得金額         三八万七二四一円

(二) 不動産所得の金額           二三六万三六〇一円

(三) 給与所得の金額            四二四万八一六〇円

(四) 一時所得の金額の二分の一に相当する金額 一九万九〇五六円

2  緑地保存奨励金に係る所得金額について

(一) 収入金額

原告は、昭和五四年中に、横浜市から後記緑地保存契約に基づき、同年分の緑地保存奨励金(以下「本件奨励金」という。)として三八万七二四一円の交付を受けた。これは、雑所得に係る収入金額にあたる。

(二) 必要経費

本件奨励金に係る所得金額の計算上必要経費に算入すべき金額は存しない。原告の主張する後記固定資産税等及び本件更正において認められた管理費は、次のとおり、必要経費と認めることはできない。

(1) 本件奨励金の性質

(イ) 横浜市は、昭和四八年六月に「緑の環境をつくり育てる条例」(同市条例第四七号、以下「本件条例」という。)を制定し、そのころ同条例に基づき、これが実施に関する必要事項として、「横浜市緑地保存特別対策事業実施要綱」(以下「本件要綱」という。)を定めたが、同要綱第二章は、同条例六条の規定に基づき、同市長が保存すべき緑地を指定することにより、民有緑地を保存し、もつて良好な都市環境の形成及び健康で文化的な都市生活の確保を図ることを目的として、市街化区域内の主として樹木によつて形成されているおおむね一〇アール以上の一団の土地で、右目的の達成に寄与すると認められる緑地について、同市長が、緑地の所有者の申請に基づき、当該土地所有者と保存契約を締結して緑地保存地区に指定し、緑地保存奨励金(当該土地の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の課税額を勘案して算定した額)を交付することを概要とする緑地保存地区指定事業(以下「本件事業」という。)を発足させた。

(ロ) 原告は、昭和五二年二月二八日、横浜市との間で、原告所有の横浜市戸塚区岡津町二一二〇番地の一及び同所二一一七番地の一に所在する山林合計七三〇五平方メートル(以下「本件土地」という。)につき、同日から同六二年三月三一日までの間緑地として保存すること等を内容とする緑地保存契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(ハ) 本件契約は、三条一項において、原告が本件土地について、〈1〉建築物及びその他の工作物の設置、〈2〉宅地の造成、土地の開墾、土石の採取その他土地の形質の変更、〈3〉木竹の伐採、〈4〉その他緑地の保存に影響を及ぼす行為をしてはならない(以下「本件不作為義務」という。)旨、同条二項において、原告が本件土地の植生及び環境を良好に保つように管理しなければならない(以下「本件管理義務」という。)旨、四条において、原告が本件土地の所有権を移転し又は本件土地に使用及び収益を目的とする権利(以下「使用収益権」という。)を設定しようとするときは、あらかじめ横浜市と協議しなければならない(以下「本件協議義務」といい、以上の三つの義務を合わせて「本件諸義務」という。)旨定めている。

(ニ) しかしながら、本件契約は、原告が横浜市に対し本件土地の使用収益権を与えるものではなく、本件不作為義務も、原告が本件土地を従前のとおり緑地のままの状態で自ら使用することを妨げるものではないので、現に、原告は、本件契約締結後も、本件土地を原告が住職を兼ねている浄土宗徹底山向導寺の境内地の一部及び同寺の裏山として、管理、利用している。また、本件管理義務も、その具体的な内容を特定していないので、これにより、原告が本件土地につき従前から行つていた日常的な管理を超える新たな管理義務を負担したとはいえない。更に、本件協議義務も、原告が本件土地の所有権を移転し又は本件土地に使用収益権を設定することを禁止してはいない。そして、本件契約は、原告が本件諸義務に違反した場合の制裁措置を定めていない。結局、本件契約は、横浜市が原告に対し金銭的に補償しなければならないような不利益を新たに負担させるものではない。

そのうえ、本件奨励金の金額は、本件要綱九条により、横浜市長が毎年度予算の範囲内において本件土地の固定資産税等を勘案して一方的に決定することができ、原告がその金額の多寡につき異議を述べる余地はない。

(ホ) 結局、本件奨励金は、横浜市が本件土地を使用収益することの対価としての性質を有するものではなく、横浜市がその施策を達成するために交付する助成金又は褒賞金的な性質を有するものである。

(2) 固定資産税等

所得税法三七条一項は、不動産所得、事業所得又は雑所得(以下「不動産所得等」という。)の必要経費は、別段の定めがあるものを除いて、売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用(以下「直接に要した費用」という。)と販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(以下「業務について生じた費用」という。)とである旨定めているところ、不動産所得等についての固定資産税等は、直接に要した費用には該当せず、業務について生じた費用に該当しうるものであるが、この業務とは、対価性のある所得を獲得する行為をいうものであつて、対価性のない所得を獲得するにすぎないものは含まないと考えられる。

本件奨励金は、前記のとおり、助成金又は褒賞金的な性質を有するものであり、対価性のない所得であるから、本件奨励金につき固定資産税等を必要経費すなわち業務について生じた費用として控除することはできない。

(3) 管理費

本件更正において、本件奨励金に係る必要経費として、本件土地の管理費一〇万円が認められたが、その使途及び支払先は不明であるうえ、これを明らかにする一切の資料の提示もないから、これを必要経費と認めることはできない。

よつて、原告の昭和五四年分の総所得金額は七二一万四八八六円であるところ、本件更正における原告の同年分の総所得金額は別表記載のとおり七一一万四八八六円であつて、右被告主張額の範囲内であるから、本件更正は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、原告の昭和五四年分の総所得金額の内訳として、(一)(1)、(二)、(三)、(四)の各所得金額のあつたこと及びその合計額が六八二万七六四五円となることは認め、その余の事実は否認する。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)柱書の主張は争い、同2(二)(1)のうち、(イ)(ロ)(ハ)の事実は認め、(ニ)(ホ)の主張は争い、同2(二)(2)の主張は争い、同2(二)(3)のうち、本件更正において本件奨励金に係る必要経費として本件土地の管理費一〇万円が認められたことは認め、その余の主張は争う。

五  原告の反論

本件土地の昭和五四年分の固定資産税等三八万七二四一円は、次のとおり、本件奨励金に係る所得金額の計算上必要経費に算入すべきである。

1  本件奨励金の性質

(一) 本件不作為義務は、原告が本件土地を従前のとおり緑地のままの状態で使用し続けなければならないとするものであるから、原告の本件土地の所有権を制約するものである。また、本件管理義務は、本件要綱三条から明らかなとおり、良好な都市環境の形成及び健康で文化的な都市生活の確保を図ることを目的として、原告が横浜市に対して負担したものであるから、これにより、原告は本件土地につき従前から行つていた日常的な管理を超える右目的のための新たな管理義務を負担したといえる。現に、原告は、本件契約締結後、横浜市民が本件土地(山林)内を散策できるようにする目的で、従前行つていなかつた本件土地の下草刈りをやるようになつたが、右下草刈りは、相当の重労働である。更に、本件協議義務は、原告が本件土地の所有権を移転し又は本件土地に使用収益権を設定するに際して大きな負担となるものであるうえ、場合によつては、所有権の移転又は使用収益権の設定の具体的内容(所有権移転時期、対価額等)に影響を及ぼし得るものである。

結局、本件契約は、横浜市が同市民に対し緑地環境を提供して同市の施策を実現するという利益を受ける反面、原告に対し金銭的に補償しなければならないという不利益を新たに負担するものといえる。

また、本件奨励金の金額が、被告主張のとおり、横浜市長の一方的決定に委ねられているとしても、一般に、一方当事者が同一内容の契約を画一的に多数の者と締結する場合、当該当事者が当該契約内容を一方的に定め、相手方は当該契約内容に従つてのみ契約し得るという例は、正札附売買、確定料金率による契約、普通契約条款による取引など枚挙にいとまがない。

(二) 結局、本件奨励金は、本件契約に基づき、原告が横浜市に対し本件諸義務を負担して不利益を受けることの対価としての性質を有するものである。

2  固定資産税等

本件奨励金は、前記のとおり、対価性のある所得であるから、本件奨励金につき本件土地の昭和五四年分の固定資産税等三八万七二四一円を必要経費すなわち業務について生じた費用として控除すべきである。

3  なお、本件奨励金につき固定資産税等を必要経費として控除すべきことは、次の点からも、明らかである。

(一)(1) 横浜市は、原告との間で本件契約を締結した後である昭和五七年七月に、本件要綱八条に同条二項を追加し、これに伴い緑地保存契約書の書式を改訂する旨の本件要綱の改正をした(以下、改訂された書式を「改訂書式」といい、改正された本件要綱を「改正要綱」という。)。

改正要綱及び改訂書式は、横浜市との間で緑地保存契約を新たに締結する土地所有者が、本件不作為義務と同旨の不作為義務に違反したときは、横浜市は、当該緑地保存契約を解除し、同人に対し既に支払つた緑地保存奨励金及びこれに対する年一四・六パーセントの割合による金員の支払を求めることができる(以下「新設違約条項」という。)旨定めている。

(2) そうすると、改正要綱及び改訂書式に基づき交付される緑地保存奨励金の性質は、単なる助成金又は褒賞金的なものではないといえるところ、改正要綱及び改訂書式の内容が新設違約条項以外の点については本件契約と同様であることに照らすと、本件奨励金の性質も、助成金又は褒賞金的なものではないといえる。

(二) 昭和五六年度の水田利用再編奨励補助金についての所得税及び法人税の臨時特例に関する法律(昭和五七年法律第三号。以下「補助金特例法」という。)一条においては、水田利用再編奨励補助金につき固定資産税等を必要経費として控除することを認めている。本件奨励金についても、水田利用再編奨励補助金と同様に考えるべきである。

(三) 本件奨励金は、地方税法七二条一項、同条五項五号により不動産貸付業に基づく所得として、個人事業税の課税対象となつている。そうすると、本件奨励金に係る所得については、不動産所得と同様に、固定資産税等を必要経費として控除することが認められるべきである。

六  原告の反論に対する認否及び再反論

1  原告の反論柱書及び同1の主張は争う。

2  同2の主張は争う。

3(一)  同3柱書の主張は争い、同3(一)のうち、(1)の事実は認め、(2)の主張は争う。本件契約は、昭和五二年に横浜市と原告との間で締結され、本件奨励金は、同五四年中に、横浜市から原告に交付されたものであつて、本件奨励金については、同五七年以後に設けられた新設違約条項の適用がない。

(二)  同3(二)の主張は争う。水田利用再編奨励補助金は、米の過剰生産を抑制するために、それまでに行われていた収益性の高い稲作を事実上禁止(転作、休耕等)することによつて新たに農家に生じた不利益(稲作による実質的な収益相当分)を填補するため交付されるもので、本来の農業所得と表裏の関係にあるのであつて、補助金特例法は、このような実質関係を考慮して課税上の特例を定めた特別立法である。

しかして、本件契励金については、原告に特に新たな不利益が生じていないのであるから、両者は、その事情を異にするといえる。

(三)  同3(三)の主張は争う。本件奨励金は、事業としての不動産貸付業に基づく所得にはあたらないうえ、不動産貸付業については、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(昭和五六年法律等一五号)等により、昭和五六年以降の各年分の所得に対し課するものから適用されるものである。

第三証拠<略>

理由

一  横浜中税務署長が原告の昭和五四年分の所得税について別表記載のとおりその総所得金額を七一一万四八八六円とする本件更正をしたこと、原告の同年分の総所得金額が本件奨励金に係る所得金額を除いて六八二万七六四五円あつたこと及び原告が同年中に横浜市から本件奨励金三八万七二四一円の交付を受けたが、これが雑所得に係る収入金額にあたることは、当事者間に争いがないところ、被告は、雑所得である本件奨励金に係る所得金額の計算上、本件土地の同年分の固定資産税等三八万七二四一円は、業務について生じた費用とはいうことができないので、必要経費には算入されない旨主張し、原告は業務について生じた費用である旨抗争するので、判断する。

所得税法三七条一項は「その年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、直接に要した費用及び業務について生じた費用の額とする。」旨定めているから、ある支出が必要経費として控除されうるためには、別段の定めがあるものを除き、客観的にみて、それが業務と直接の関係をもち、かつ業務の遂行上必要な支出でなければならないものというべきであるところ、土地についての固定資産税等は、当該土地が業務の用に供されると否とにかかわらず当該土地の所有者に課されるものである(地方税法三四三条)が、当該土地が業務の用に供されている場合には、その固定資産税等の支出は、客観的にみて当該業務と直接の関係をもちかつ当該業務の遂行上必要な支出であるということができるから、これが必要経費として当該業務に係る所得から控除されうるものということができる。

そこで、本件土地の固定資産税等の支出が雑所得である本件奨励金から控除されるべき必要経費に当るか否かについて、検討する。

1  <証拠略>によれば、本件条例は、市民が力を結集して緑の環境をつくり育てることにより、横浜を健康でうるおいのある住み良い都市とすることを目的として制定されたものであること、同条例は、「何人も、緑の環境をつくり育てるため、みずから最善の努力を尽さなければならず、これを破壊した者は、その責任において、これを回復しなければならない。」(一条)、「市民は、その居住する地域の緑化に努め、また、土地の所有者及び管理者は、それぞれの所有し及び管理する土地の緑化に努めなければならない。」(五条)、「市長は、緑地、樹木等の所有者らの同意を得て、保存すべき緑地、樹木等を指定することができる。」(六条一項)、「市長は、緑の環境をつくり育てるため、市民等に対し、苗木の供給及びあつせん、奨励金の交付、技術的な助言その他の援助をすることができる。」(一〇条)旨定めていることが認められるところ、同条例に基づき、その実施のために本件要綱が定められ、横浜市において、市長が良好な都市環境の形成及び健康で文化的な都市生活の確保を図るために、市街化区域内の主として樹木によつて形成されているおおむね一〇アール以上の一団の土地で、右目的の達成に寄与すると認められる緑地につき、市長が当該緑地の所有者の申情に基づき、同所有者の保存契約を締結し、緑地保存地区に指定し、当該土地の固定資産税等の課税額を勘案して算定した額の緑地保存奨励金を交付する旨の本件事業が発足したことは当事者間に争いがなく、更に、<証拠略>によれば、本件要綱には、右保存契約によつて当該土地所有者の負担する内容として、本件不作為義務、同管理義務及び同協議義務と同旨の定め(六条及び七条)がなされているが、右義務の内容は、所有者の当該土地に対する処分又は使用権限を何ら制限するものではなく、所有者はこれを従来どおり占有使用し、また、維持管理をすれば足り、単に、同土地の処分にあたつては、市長が右保存契約の解除等の行政措置を適切に行うことができるようにするため、協議の義務が課されているが、同義務を怠つても制裁がないこと、他方、市長は同所有者に対し、同条例の協力者として、当該土地の固定資産税等の課税額を勘案して算定した額の奨励金を交付することになつていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右各事実によれば、土地所有者が市長との保存契約によつて負担する義務の内容は市民生活上における緑化のための努力義務の域を出ないものといわざるを得ない。

したがつて、右奨励金は、土地所有者が当該土地を第三者の利用に供したことの対価に当らないことはもちろん、同所有者の事業活動から生ずる所得でもないことが明らかであるところから、所得税法上も雑所得に該当することになるのである(雑所得に該当すること自体は原告も自認している。)。

そうすると、本件土地は、原告が横浜市との間で本件契約を締結したことにより、その利用形態には何らの変更も生じておらず、単に従来どおり緑地の侭にしておくことで足りるのであるから、これが業務の用に供されたとはいえないし、また、原告の支出した本件土地の昭和五四年分の固定資産税等についても、これが業務の遂行に必要な支出であるということもできない。

2  なお、原告は、改正要綱及び改訂書式が新設違約条項を定めていることからも、前記固定資産税等の支出が必要経費として認められるべき費用に当る旨主張するが、新設違約条項は、昭和五七年七月以後の緑地保存契約に付加されたものであつて本件契約の内容となつていないことは当事者間に争いがなく、しかも、本件奨励金が昭和五四年中に横浜市から原告に交付されたものであることは前記のとおりであるから、右主張は採用できないが、仮に本件契約にも当初から新設違約条項が含まれていたとしても、同条項の有無により本件土地の利用形態及び本件奨励金の性質に差異が生ずるものではないから、本件土地が業務の用に供されたか否か等についての前記判断を左右するに足りるものではない。

また、原告は、補助金特例法一条の趣旨からも、前記固定資産税等の支出が必要経費として認められるべきである旨主張するが、同条所定の水田利用再編奨励補助金と本件奨励金とは全く性質を異にしていることが明らかであるから、右主張は採用することができない。

更に、原告は、本件奨励金が地方税法七二条一項、同条五項五号により不動産貸付業に基づく所得として個人事業税の課税対象となつている旨主張するところ、不動産貸付業については、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(昭和五六年法律第一五号)等により、昭和五六年以降の各年分の所得に対し事業税が課せられるものであることが明らかであるのみならず、本件奨励金は前記のとおり本件土地の貸付による所得ではないから、右事業税の課税対象とならないことは明らかである(なお、<証拠略>によれば、原告は、昭和五七年分の所得税の確定申告において、本件土地が横浜市に対する貸地である旨記載して申告し、事業税を納付していることが認められるが、右申告自体が誤りであることは明らかである。)。

3  以上のとおり、本件奨励金に係る所得金額の計算上、本件土地の昭和五四年分の固定資産税等を必要経費として算入することはできないものといわざるを得ない。

そうすると、原告の昭和五四年分の総所得金額は七二一万四八八六円であるところ、本件更正における原告の同年分の総所得金額は、別表記載のとおり七一一万四八八六円であつて右認定額の範囲内であるから、本件更正には違法がない。

二  よつて、原告の本訴請求は、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古館清吾 橋本昇二 足立謙三)

別表<略>

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